私も、見事に引っかかった! ~ ブルーバックス 「超常現象をなぜ信じるのか 思い込みを生む「体験」のあやうさ」
まず断っておきますが、タイトルに掲げた本は、超常現象を否定している内容ではありません。
UFO(未確認飛行物体)やUMA(未確認動物)、超能力や占いを信じる人でも、安心して読めますし、蔓延っている似非科学や、宗教と言っても差し支えない科学教的な内容でもありません。
まっとうな科学本です。
超常現象をなぜ信じるのか 思い込みを生む「体験」のあやうさ (ブルーバックス)
- 作者: 菊池聡
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/11/08
- メディア: Kindle版
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感想
この本には、人間の認知の偏りを知るためのテストがいくつかあります。それほど難しいテスト問題ではないはずなのですが、ほとんどの問題で、見事に引っかかりました。疑い深くて論理的だと思っている私(笑)が、です。
また、自身を客観的に捉えるための、いわゆるメタ思考に役立つことが多く書かれています。印象に残った二つほどを、紹介しましょう。
予期にそって情報を確証しようとする確証バイアスが、ステレオタイプ的なものの見方を助長している
予期に沿った情報収集が行われてしまう事には、うなずかざるを得ませんでした。
例えば、初対面の人について、あらかじめ「内向的な性格」との情報を得ていた場合、「騒々しいパーティーのどんなところが嫌いですか?」といった、予期を確認する質問が多くなるのは、心当たりがあります。
その人が、内向的な面も外向的な面もそこそこ合わせもった人、つまりふつうの人でも、「内向的な性格」という予期にそった答えになってしまうことが多いので、予期を確証することになってしまうとのこと。
こういった認知が、ステレオタイプ的なものの見方を助長してしまうんですね。
回帰の誤認識が「ほめること」と「叱ること」に関する誤信念を生み出す
この事実は、目からウロコでした。
「叱ることが非常に効果的だという素朴な信念」が、回帰の誤認識によるところもあるといった話は、衝撃的でした。
よいこともすればわるいこともするふつうの子なら、よいことをした後にはわるい状態へ回帰する可能性が高い、その逆に、わるいことをした後にはよい状態へ回帰する可能性が高い、というのは確率論でも正しいことは分かります。
これが、「ほめた後にはわるくなる」、「叱った後にはよくなる」という具体的な体験をもつことになり、叱ることへの信頼を生み出してしまうとのこと。
だから「ほめて伸ばす」ほうがよい結果をもたらすんですね。教育心理学の研究でも、明らかになっており、科学的にも正解なんですね。
星5つのところ、星4つ。自身を見つめなおすこともできる、優れた科学本です。
唯一、残念なのところは、固定レイアウト(ページ全体が画像のような扱い)になっていることです。文字列を反転できないので、知らない単語を調べるのが面倒だったり、気になる箇所をハイライト出来ません。
素直に読めなかった童話 ~ 芥川龍之介 「白」
真っ白なワンちゃんが、真っ黒になってしまうお話。
荒っぽく筋書きを描けば、「飼い犬がある出来事から住処を追われる。罪の意識にさいなまれ、自死のために各地を放浪。意図せず徳を積み重ねたため、最後に救済される。」そんな童話です。
よくできた童話なのでしょうけれど、素直に読めなかったです。
最近読んだ芥川の作品「河童」や「地獄変」、芥川自身に共通する、「自殺」。この「白」の主人公も、罪の意識から自死するため、各地を放浪して無茶な行動を繰り返しています。そんなテーマは、どうも暗くて潔癖過ぎて、好きになれません。
真っ黒に毛並みに変えられたことで神を呪ったり、やけっぱちの破れかぶれになってくれたほうが、人間らしく思うのです。
最後に主人公が救われたのは、ほっとした半面、救われて欲しくなかったと思ったのは、私の性格が歪んでいるからなのでしょうか。
誰が地獄へ落ちるべきか ~ 芥川龍之介 「地獄変」
武士の世になる前の、貴族の世の物語、大好きです。 おどろおどろしい人間のありようが、グッときます。
いろいろな解釈が出来る作品なので、そこがまたよいです。芥川龍之介の芸術至上主義を、「地獄変」を描いた絵師良秀を借りて表現しているといったところが、よく見かけるところです。
感想
読み終えて、まず思ったのは、大殿の残酷さでした。良秀の娘を車ごと焼き殺す趣向を考えたのは、大殿です。さすがの良秀も、娘を助ける行動に出ると考えていたに違いありません。それが、芸術のためには娘の死も厭わなかったため、青ざめていたのでしょう。
いずれにせよ、地獄変の絵に描かれているように、身分や年齢に関係なく人間は地獄に落ちるべしと言われているようで、恐ろしいです。物語の中で言えば、良秀は言うに及ばず、大殿や良秀の娘も、地獄に落ちろと。そして、語り手の奉公人でさえ・・・。
ただ、望むとすれば、猿の良秀だけは、天国へ召されていて欲しいです。
私には、理解できていないと思う ~ 芥川龍之介 「河童」
正直、私には理解できていないと思います。
河童の奇妙な暮らしぶりが描かれているお話で、それ自体は難解ではないです。ただ、芥川の意図するところが理解できず、もやもやとした暗さが残った読後でした。
人間社会を風刺した作品だということは分かるのですが、芥川は、自身を含め、愚かな人間や人間社会が許せなかったのでしょうか。
「河童」が発表された同じ年に、芥川は自殺しています。
これまでに読んだ芥川龍之介の作品
さらっと読め、万人が想像しやすい題材の経済入門書 ~ もしドラえもんの「ひみつ道具」が実現したら タケコプターで読み解く経済入門
SF好きには気になる題名だった事もあり、しばらく前にKindle版を購入。近頃、小説を読むことが多かったので、気分転換として本書を選びました。
多くの人に想像しやすいドラえもんを題材に、イノベーション(技術革新)発生時の経済の動きについて、実在の企業名を挙げて分かりやすく、説明されています。
感想
正直、読む前に期待していた内容とは違っていました。キャッチーな題名に騙されますが、副題にある通り、経済入門書です。SFじゃなくて残念でしたが、内容は悪くはなかったです。
空想科学読本のようなSFエンターテイメント本じゃないです
本書のあとがきにもありますが、科学的な検証は脇に置かれています。SFじゃない。
経済入門書として、今時のキーワード「AI」、「VR」、「スマートウォッチ」が普及したらどうなるかだと、どうしてもIT関連企業の印象が強く、世の中の経済活動を広く想像しづらいですよね。
「タケコプターが実現したら、保険、警備などに新たなビジネスチャンス」と本書にありますが、経済に疎くとも、これなら書かれている内容は想像しやすいです。SFにこだわる人には物足りませんけれど、経済入門としては、いいとっつきと思いました。
出版から5年以上経過しているので、実在の企業名などに違和感
実在の企業名が挙げられているので、分かりやすい反面、少々時代遅れなところもあります。書籍である以上、仕方がないことです。
ワタミの介護事業、三洋電機「エネループ」など。現在の姿に思いをはせると、何とも言えない気持ちになります。時の移ろいは残酷。
とは言え、分析は的外れではないです。2010年当時を題材とした経済本として、本書を読むべき。
「タイムマシン」は、出てこない
本書の中でも述べられていますが経済入門なので、やむなしですね。影響が大きすぎて、発散しますもん。
あとがきも熟読すべし
あとがきは読み飛ばされる方もいらっしゃるかもしれません。でも、この本は、あとがきも読むべき。
著者がファンドマネージャーで、どういった視点で経済を見ているかが述べられています。ほんの入り口、まさに入門でしょうけれど、経済を勉強した気持ちを持てます。
浅く広く分かりやすく、短めでお手軽。そんな経済入門としておすすめ。星5個のうち、3個くらいかな。
【備忘メモ】原材料名欄の『/』(スラッシュ)の意味、知っとるけ?
おやつにスナック菓子をボリボリ。
袋の原材料名欄を眺めてたんですけど、そこに、見かけない文字を見つけました。
途中で『/』(スラッシュ)で区切られている箇所があったんです。原材料が『、』(読点)で区切られて並んでいるのはおなじみですが、『/』で区切られているのは初めて見ました。これまで気が付かなかっただけかもしれませんが。
おお?
こんな感じで書かれていました。
原材料名:小麦粉、植物油、でん粉 / 膨張剤、調味料(アミノ酸等)
『/』(スラッシュ)に、どういう意味があるのか、ご存知ですか?
人によっては、どうでもいいようなことでしょうけれど、私はものすごく気になりまして、すぐに調べました。(こういう時、ネットは便利だなぁと思います。)
そして、消費者庁のサイトで見つけました。
「原材料」と「添加物」の区分なんですって。『/』(スラッシュ)の前に書かれているのが「原材料」で、後ろが「添加物」です。
へえ~。これまで、ちゃんと区分できなかったけれど、これならはっきりしているね。
こうなったのは、2016年4月1日から「食品表示法」が施工されて、新しい食品表示制度が始まっていたかららしい。知らなんだ・・・
出展:消費者庁のサイトより
消費者庁ウェブサイト
食品表示法等(法令及び一元化情報)
食品表示についてのパンフレット
知っておきたい食品の表示(平成28年6月版・消費者向け)[PDF:4.5MB]
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syoku_hyou_all.pdf
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トピック6 原材料名と添加物の見方 ②原材料名欄に原材料と添加物を区分して表示 例 1)
小説「宮本武蔵」のできかた ~ 吉川英治 「随筆 宮本武蔵」
吉川英治の小説に「宮本武蔵」がありますが、その小説を書くにあたっての資料収集や取材、どういうふうに考えて小説にしたかが書かれている随筆があります。
それが「随筆 宮本武蔵」です。
小説「宮本武蔵」を読んだ後、この随筆を読みました。いろいろと興味深い話がありました。
武蔵に関する史実は少ない
武蔵の生涯に関して史実と思われることは、幼少期と晩年くらいで、創作されたものが多いのは意外でした。最強の剣士と呼ばれるくらいで有名なのに、何とも不思議なことです。この随筆が書かれてから80年近く経っているので、研究は進んではいるのでしょうけれど。
史実と創作
小説には、準主役として本位田母子が出てきます。実際にある本位田家の人物から、先祖にそのような人物は見当たらないと言った反論があったくだりは、ちょっと笑ってしまいました。本位田母子は、偉大な人物として描かれていないので、分からなくもないですが。
また、小説には禅僧沢庵がキーマンとして出てきます。史実として武蔵と交流があった証拠はないそうですが、出生地が武蔵と近所だったり、剣と禅の関係から、エピソードに組み込まれたようで、そこは吉川英治の小説家としてのすごさを感じます。
芸術家としての側面
武蔵が書いたと思われる絵画についても、随筆で触れられています。絵の師匠が居たのか居なかったのか不明ですが、水墨画なんかは独特の勢いがあります。
インターネットで検索するとすぐ観ることができる「古木鳴鵙図」などは、鵙(モズ)が止まっている枝の勢いなんか見ても、すごいです。何度か書き直したかもしれませんが、水墨画ですから、完成品は油絵などと違って修正がききませんし。
昭和二十年代の取材ぶり
武蔵の出生地との説がある岡山県の山奥に自動車で訪問される辺りは、時代を感じます。自動車を物珍しそうに眺める子供や、蓑笠や和服や紋付き袴を着ている人の描写があったりします。
巌流島のあるあたりの取材でも、要塞法という法律で写真やスケッチが禁止されている話も出てきます。そんな時代に書かれた小説なんです。
晩年
小説では巌流島の決闘で終わりますが、随筆は史実から晩年について書かれているのも、うれしいです。小説を読むと、”その後”も知りたくなりますから。
小説では出てこない武蔵の著作についても、難しい内容ですが触れられています。
一乗寺下り松の決闘の着想
小説では、実際に見たかのような躍動感に溢れる描写があります。万端準備を整えた数十人の吉岡門下と戦って勝つなんて、とても無理そうなんですが、小説を読むとありえそうに思えてきます。
その着想が、現地を取材することで生み出されたことが、随筆を読むことでよく分かります。
この本は、小説「宮本武蔵」を読まれた方へ、武蔵の余韻を味わうことができるのでお勧めです。