midqqのブログ

マンガとSF、時々テクノロジー。その他、雑多に書き綴ります。

やっぱ悪役はつらいよな ~ 吉川英治 「鳴門秘帖」

「俺たち悪役はつらいよな」

「ウム」

「ま、ロクな死に方しねえだろうサ」

「ウーム・・・・・・」

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今回は、吉川英治氏の『鳴門秘帖』(なるとひちょう/なるとひじょう)の感想です。 

鳴門秘帖について

昭和20年代に、新聞に連載されていたそうです。私が読んだのは青空文庫版になります。6巻構成の長編です。

大衆文学を開拓した作品で、伝奇小説黎明期の傑作である。Wikipediaより

 江戸時代中期、「幕府隠密とその仲間たち」 vs「阿波徳島藩」の討幕が絡んだお話です。歴史上の人物や事件がちらほら出てきますが、伝奇小説とある通り、エンターテイメントに徹したフィクションです。

 ちょろっとだけ感想

大阪と江戸の往来、阿波への渡海など、場面も大きく変化していくし、個性的な人物も多いし、恋情もあり、いろいろと楽しめました。長編とは言え、さらさらと読めます。細かなところへのツッコミは野暮なので、そこは気にせず読み進めましょう。主人公無双で痛快なのは良いのですが、それにしても、「悪役はつらいよな」と同情したくなるお話でした。ああ、愛すべき悪役たち、何人が正義の名のもとに倒されたのやら。

 悪役が魅力的!

さて、ストーリーもよいですが、登場人物が面白かったので、紹介しておきましょう。主人公側より、敵役の実行部隊、三馬鹿(勝手に命名)が味わい深くて好きなので、まずは敵側から。

敵役・阿波徳島藩

濃い人が多いです。はい。

三馬鹿

三悪と言うより三馬鹿という呼称がぴったり。敵側の主役です。悪役はつらいよ。

お十夜孫兵衛(おじゅうや まごべえ):敵側の主役。主役と言ってもボスキャラじゃなく、いろんな意味で話の中心人物と言う意味です。

まず、彼に言いたいのは「頭巾取れよ。」ですね。女と寝る時も取らないし、風呂でさえも一人でこっそり入る。君、髪の毛が無いのか? それとも恥ずかしい入れ墨でもあるのか?と謎が謎を呼ぶ。そぼろ助広なんて、名刀?を持ち、粋な服装でおしゃれをしつつ、辻斬りしていたザ悪党。

旅川周馬(たびかわ しゅうま):ヒロインのお姫様お千絵を幽閉し、甲賀家の財宝も根こそぎ手に入れようとする悪い奴。大物かと思いきや、三馬鹿の中で、剣技が一番弱くてパシリにされている可哀そうな人。総髪のニキビ侍、ブサメンなのでヒロインから嫌われているのも可哀そう。本来は侍と言うより隠密だと思うけれど、実力を出し切れなかったかも。

天堂一角(てんどう いっかく):剣技一筋でカタブツ。三馬鹿の他の二人と違って、そんなにあくどい事はしていないのに敵側に属したせいで、ろくでもないことに。剣技だけは敵側で一番。

黒幕

蜂須賀重喜(はちすか いえよし):なぜ討幕に走るのか、いまいち分からない若殿様。歴史上は、出羽秋田新田藩 佐竹氏の血を引くし、阿波徳島藩も数代前から松平大膳家の血筋になっていて、なぜ打倒徳川となるのか謎。男に生まれたからにはテッペンを獲れという事なのか?

竹屋三位卿有村(たけや さんみきょう ありむら):題名にある秘帖の元となった、阿波徳島藩の軍備マップを作成して、囚われの世阿弥の居る場所に落としちゃったうっかりさん。ものすごく行動的で、頭も回るし、敵側の実質ボス。でも、居候。

そのほかの人

森啓之助(もり けいのすけ):もうちょっと悪人として活躍してくれそうだったけど、末路は・・・・・・

宅助(たくすけ):森家の中間。森啓之助の囲い女お米を見張る。いかにもな小悪党だが、下っ端の悲哀を感じた人。

川長のお米(かわちょうの およね):内向的で、器量良し。結核を患っている。悲劇のヒロイン属性を沢山持つ。

その他、名もなき原士(阿波徳島藩の下級侍)さんたちは、上からの命令に忠実なせいで、主人公側に倒されまくる。悪役はつらいよ。

主人公側・幕府隠密

主人公側に居なきゃ、悪人と変わらない所業の人もちらほら。勝者が正義なのだ。

主役級

法月弦之丞(のりづき げんのじょう):ザ主人公。剣技がめっちゃ強い、イケメンでモテる、身分がそれなりに高い。個人的に好きになれなかった。ある意味、大量殺人鬼。

お綱:見返りお綱と呼ばれる凄腕女スリ。主人公と行動を共にするヒロイン。裏家業から足を洗えただけでもよかった。3ヒロイン(お千絵、お米、お綱)の中では、一番好きな人物。

万吉(まんきち):岡っ引き。敵方が刀で殺しに来るのに、十手と取り縄で頑張る人。殺伐とした人が多いところ、人情家なところもいい。

甲賀世阿弥(こうが よあみ):主人公側を阿波潜入に引きずり込んだ張本人と言えなくもない。ストーリー上、仕方なしとは言え、甲賀組は隠密活動を組織的に行わないんだね。そりゃ、滅びるさ。

そのほかの人

序盤で犠牲になった人、鳩の人、スーパー助っ人、平賀源内さん、幕府方のお偉いさんなど多数居ますが、割愛。

青空文庫

青空文庫(あおぞらぶんこ)は、著作権が消滅した作品や著者が許諾した作品のテキストを公開しているインターネット上の電子図書館である。(Wikipediaより)

吉川英治氏の作品も、公開されています。私は、Kindle版で読みました。

鳴門秘帖 02 江戸の巻

鳴門秘帖 03 木曾の巻

鳴門秘帖 04 船路の巻

鳴門秘帖 05 剣山の巻

鳴門秘帖 06 鳴門の巻