まるで映画か、短編小説のような ~ 豊田徹也 「珈琲時間」
2か月ほど前に読んだ蟲師の短編集のなかで気になった作家、豊田徹也さん。
Kindle化されているものは、この単行本だけ*1ですが、読んでみました。
すると『まるで映画か、短編小説のような』珈琲の香りがする作品を味わうことができました。
珈琲時間とは
まずは、どんなコミックなのか、紹介しましょう。
主役は珈琲?
コーヒーがあるだけで、世界はこんなに美しい。「コーヒー」をモチーフにした芳醇な短編集。チェロ弾きの女性が出会った、怪しいイタリア人(?)。映画監督を名のり、コーヒーをたかる彼の振る舞いはいかにもうさんくさいが……? 登校拒否の少女が一人暮らしの叔母を訪れ、いっしょに生豆を焙煎し淹れたてのコーヒーを味わう……。などコーヒーにまつわる様々な物語を17編収録。(Amazonの内容紹介より)
珈琲が主役・脇役と言うよりは、珈琲が小物として出てくるお話です。いろいろな種類の珈琲が出てきますが、それらは名前だけでどんな珈琲なのかといった描写はありません。
それぞれのお話は、関連があったりなかったりで、テーマや雰囲気も様々です。そして、なんと17編もあります。
豊田徹也さんは、寡作なんですが、この1冊だけでも十分満喫できると思います。
同名の雑誌
大誠社から同名の『珈琲時間』という季刊?雑誌が出版されていますが、豊田徹也さんの『珈琲時間』とは全く関係はないようです。雑誌は、珈琲店の紹介や珈琲に関する事柄など、珈琲が主役のようです。 表紙や紹介文から、お洒落な雰囲気が感じられるので、いつか読んでみたいですね。
感想
表紙を見てください。珈琲カップの下敷きになったような珈琲の滲みが表現されています。面白い表紙ですね。
それぞれのお話の題や、エピソード、小物などには、元ネタがあるようです。私は、残念ながら知識に乏しいので、うんちくを語ることはできませんが、それでもお話は楽しめました。
それぞれの中身が濃いこと、17編もあることから、短編集に感じがちな物足りなさを感じることはありませんでした。
星5つのうち、5つをつけていいでしょう!ブラボー!!
では、それぞれのお話に対して、簡ですが感想を。
「Whatever I want」
日本語が上手な、うさん臭いラテン系。それだけで珈琲が似合う気がしますね。最後のテレビインタビューの様には笑いました。
「カプチーノ・キッド」
豊田徹也さんの「アンダーカレント」に出てくる探偵山崎が活躍します。
いろいろと背伸びした小中学生くらいの男の子。これくらいの年頃の男の子って、年上の女性を好きになりますよね。わかります。
「すぐり」
生きることに悩んでいるような中高生くらいの少女。珈琲の自家焙煎を手伝って汗をかき、おいしい珈琲とスイーツがあれば、なんとか折り合いをつけていけるよね。ああ、青春。
「ロボット刑事」
結局、中の人は居るんだろうか?
「KIKI The Pixy」
泰然とした老人と、神経質な男と、いたずらっこな少女の対比がおかしい。映像にしたら、ひまわり畑がものすごく映えそう。
「Hate to See You Go」
時代こそ違え、西部劇のような味わいがありました。珈琲ブレイクだからこそ、話が弾むんでしょうね。合掌。
「深夜+1」
ハードボイルドな冒険小説の題名から取られたようですが、それとこれとの関連性が私には分かりませんでした。
「ちょっとコーヒーでも」の結果が、圧倒的な生活感と修羅場になってしまった・・・。男性はもう逃げられませんね(笑)
「リトル・ガール・ブルー」
少々、ハードなお話。バッドエンドはさけられたのだよね?
寒いとき、あったまる珈琲は最高です。
「Where are you」
「Whatever I want」の続きのお話。忠犬の場面と、映画監督とチェロ弾き女性のはっちゃけたやり取りの場面とのコントラストが味わい深いです。
「冬の波乗り」
サーファーを続けている男性と、それをやめてしまった友人の話なのでしょうか。冬のサーファーって、理由はよくわからないですが、純粋な感じを受けます。
探偵山崎がいい味出してます。
「きりん」
シュールなお話。ライオンは普段、きりんを襲わないって話を思い出しました。ははは。
「CHOPPED TOMATO PUREE」
題名の空耳が「ちょっと待ってくれ」で、それがテーマなんでしょうね。たぶん。
「田中ブックカフェ」
TVか何かで、同じような雰囲気を持つ漫画喫茶を見た記憶があります。電子書籍だと、こんな奇妙な本との出会いは出来ません。電子書籍にも、こんな出会いがあればいいのにと。
しかし、このお店のようなセカンドドリップを出されることは、ご勘弁をw
「夢」
そのうち、自分も、こんな夢を見るようになってしまうのかなと思いました。年を取るってことの寂しさを感じます。
「Lost In The Flood」
老女が手にしているのは、給油口?それとも銃?。ホースがないようなので、銃なのかな。オイルを高値買いさせられた海賊は、なんともお間抜け。
「うそつき博士」
なにがうそなのか、考え込んでしまい、哲学的です。「Whatever I want」や「Where are you」の監督の映画と同じ題名。
「Any Day Now」
これまでの登場人物が、多数再登場しています。ラストにふさわしいお話。他の作品にも言えますが、読み返すたび、新たに発見があります。
「あ、あんときの登場人物が彼ね。単なるプレイボーイだったのか?」
「あの動物が、こんなとこに。」などなど
さあ、あなたも『珈琲時間』を味わってみては、いかが?
*1:2016年11月現在。この作家単独の単行本として。