midqqのブログ

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悩める若き放浪者の物語 ~ 吉川英治 「宮本武蔵」

宮本武蔵の小説と言えば、まずは吉川英治版が挙げられるかと思いますが、私は、これまで読んだことがありませんでした。二刀流の使い手、佐々木小次郎との巌流島の決闘、五輪書、養子の伊織などなど、断片的な事柄を知っているだけでした。

さて、ここ最近、吉川英治がマイブームになっています。「宮本武蔵」も青空文庫Kindle版がありますので、挑戦しました。無料で名作が読めるって、素晴らしい!

また、参考になるか分かりませんが、これまでに読んだ作品の感想も挙げておきます。

midqq.hateblo.jp

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感想

まず、興味深かった事があります。この作品は新聞に掲載された連続小説なのですが、その時期が太平洋戦争の直前にあたるようです。元となった底本から推し量ると、戦後、GHQの検閲に対応するために修正された版が青空文庫になっているようですが、何角関係か分からない色恋沙汰あり、情けない男が何人も出てきたりと、当時でもこのような表現があったんだと意外に思いました。愛国的な表現の部分は書き直されているのでしょうが、それ以外のところは、もともとあったんですから。

さて、この小説に出てくる武蔵は、「悩める若き放浪者」でした。関ヶ原の戦いの敗戦により逃亡した直後から始まって、佐々木小次郎との決闘で終わりますが、武蔵の十代から二十代の生きざまが書かれています。読む前は、勧善懲悪の剣豪小説かと勝手に想像していましたが、読んでみると全然違っていました。同じ吉川英治作の「鳴門秘帖」は、バッタバッタと敵をなぎ倒していく、爽快感のある小説でしたが、いい意味で裏切られました。

決闘で負ける場面こそありませんが、武蔵がかっこよく勝ちを収めるなんてことはなく、血みどろだったり、少年を斬殺したり、さっさと逃げたりと、人間臭いこと限りありません。また、前半こそ、強い奴と戦って勝つために放浪していますが、剣術を極めるためから、剣術を通した人生の道を究めるるようになっていく様は、武蔵に持つイメージが変わりました。剣術が優れた剣士ではなく、剣を通した求道者ゆえに、最強の剣士と呼ばれたんだと。

最後に、武蔵と対照をなす裏の主役とも言える本位田家母子、武蔵憎さに凝り固まった仇討ち狂いのプライド高き母お杉、意志の弱さから碌な生き方が出来ないダメ息子又八。そのうち野垂れ死にしそうだなと、ハラハラしながら読んでいましたが、ハッピーエンドだったのは良かった。いつの間にか、母子に、自分を投影していましたので。

  

Kindle版はこちら 

宮本武蔵 01 序、はしがき

宮本武蔵 02 地の巻

宮本武蔵 03 水の巻

宮本武蔵 04 火の巻

宮本武蔵 05 風の巻

宮本武蔵 06 空の巻

宮本武蔵 07 二天の巻

宮本武蔵 08 円明の巻